"Drawing for Rehabilitation" Solo exhibition

"Drawing for Rehabilitation" Solo exhibition
25/3/24 0:00
2年前の春、本州最南端の街を訪れたとき、美しい海辺に、数えきれないほどの漂着物が流れ着いているのを目にしました。
それらは、どこから来たのか、誰にも知られることなく、過去に何があったのかも語られることなく、また次の波に乗って、どこかへ漂っていくのでしょう。
自分がどこから来て、どこへ向かうのか-------
そんな問いすら、いつしか何も感じなくなってしまうのではないか。その静かな浜辺で、私はふと、流れ着いたものたちと自分自身とを重ね合わせていることに気づき、はっとしました。もしかしたら、私自身の今も、将来も、あの漂流物たちと同じなのかもしれない。
-------そんな思いに駆られました。
そのとき、不意に思い出されたのは、10代の頃の、がむしゃらだった日々でした。
真夏にも真冬にも山へ出かけては、夢中でスケッチをしていたあの頃。不安の中にも、確かな希望と、湧き上がる好奇心がありました。あの時間こそが、何よりも尊いものだったと今になって、ようやく気づいたのです。
けれど、その気づきの時にはもう、20年以上という歳月が過ぎ去っていました。
「何を残せたのか?何を積み重ねてきたのか?」と問いかけ、しかし手元にかき集めようとしても、目に見えるものはなく、出会ってきた人たちも、出来事も、保存してきたパソコンのデータも、それらはまるで砂山のようで、指の間からこぼれ落ち、すぐに風で跡形もなく、記憶からも消え去ってしまうものばかり。
私は役割を失いただ流されるままに辿り着いたその漂着物たちを拾い集め、2時間ほどその浜辺で、眺めて考えました。
「もし、このサンゴや流木に、自分がいま価値を見いだせるのなら、なにものでもなくなった今の私や、その私が描く絵たちにも、いつか誰かが目をとめてくれる日が来るかもしれない。」
そんなことを考えているうちに、心の奥に小さな希望が灯ったような、そんな思いがゆっくりと込み上げてくるような気がしました。
過ぎ去った時間はもう戻らない。それでも、落ちていった砂を大事に手繰り寄せながら
誰かの手元に意味あるものとして遺せるように——
そう願うように、また絵を描こう。そう思えるようになれたことが、私にとって、なによりの発見でした。

Rehabilitation Drawing
-リハビリテーション・ドローイング-
会期:2025年5月3日(土)〜10日(土)
時間:14:00-19:00
会場:サンセイドウギャラリー
神戸市中央区三宮町3丁目1−16
三星ビル 3階(地図)
在廊予定日:5月3日(土)、4日(日)、5日(月祝)、6日(火祝)、10日(土)
展示にあたって
今回、こうして人生で初めて「絵だけ」の展示をすることになりました。
人生の折り返しに差しかかる今、
拙い絵を人前にさらすのは、とても恥ずかしく、そして怖いことでした。
でも、今やらなければ、また20年。
もしかしたらもう、二度と描けなくなってしまう気がしたのです。
展示しているのは、この2年間、
リハビリのつもりで、こっそりと描き始めたドローイングたちです。
もし、お近くにお越しの際は、
ふと足を止めていただき、ご笑覧いただけましたら幸いです。
最後に---
この場に繋がるきっかけを与えてくださったのは、
絵を描くよう、励まし続けてくれた方々、
何気なく描いた似顔絵を喜んでくれた方々、
人を思いやることを教えてくれた福祉の方々、
たまに思い出して連絡をくださった方々。
流れ去っていかないようにと、
さりげなく支えてくださった皆さまのおかげです。
心より感謝申し上げます。